2009-07-09
僕たちは家を出て歩くうち自然と近所の大きな公園に向かっていた。広場では子供たちが野球をしていた。もちろん本格的にやれるほど広い場所ではないので、規模やルールを適当に縮小した形で楽しんでいるのだろう。僕にはどの部分がどういう具合に変更されているのかよくわからないのだけど。歩道やベンチは友達同士や親子連れで賑わっている。三輪車で走る弟を一輪車で追いかけていたお姉ちゃんがよろめいてお父さんの胸に飛び込んだ。すると弟はそのまま三輪車で走り続け緩い傾斜の先で三輪車もろともひっくり返ってしまい泣き出してしまった。
「カワイイ」悠はケラケラと笑いながらその子供に向かって片足を後ろに跳ね上げながら両手を使って投げキッスをした。子供はしゃくり上げながらポカンとした顔で悠を見ていた。
僕は公園の近くにオーガニックショップがあったのを思い出した。悠を連れてその店に入りお昼はそこのバイキングランチを食べることにした。木製のトレイの上に紙を圧縮して成型したいくつもの間仕切りのある弁当パックをのせて、そこに好きなおかずを詰め込んでいく。最後にご飯を玄米と穀米から選んで詰めてもらい、秤の上に乗せて重さを量り値札のラベルを貼ってもらう。僕は玄米を選び、悠は穀米を選んだ。ご飯は何れも同じ値段のはずだが、おかずをパックの蓋が閉まらないくらい詰め込んだ悠の弁当は僕の五割増しの値段になった。悠は他にも化粧水やら石けんやらお菓子やらを買い込んで、五千円以上にもなった会計を済ませた僕を急かしながら弁当を食べる場所を探していた。店先のテラスにも椅子とテーブルはある程度あるのだがあいにくそこは一杯だったので、僕たちは公園に戻り空いているベンチで弁当を拡げた。オクラの天ぷら、鰯のハンバーグと箸を進めていって柔らかく炊けた玄米をほおばる。塩だけで食べる野菜のグリルも美味しい。暖かな日差しに包まれて食べる弁当には柔らかな光が宿り、まるで至福の食事のように見える。僕は最後に残ったキラキラとオレンジ色に輝いている人参のサラダを平らげた。
僕たちの目の前をいろいろな人が通り過ぎる。僕がこちらに向かってくる乳母車の中の赤ん坊にウィンクをすると赤ん坊はケラケラと笑い出した。母親が驚いたように上から覗き込んでから、隣を歩く父親となにやら話をするとみんなが笑った。その向こうでは一眼レフカメラを首から下げた二人連れの女の子が、あちこちの写真を撮っていた。一人の女の子がこちらにカメラを向けているのに悠が気づいて、箸を持ったまま両手を顔の両側に拡げてピースサインをした。女の子がシャッターを切ったのかどうかよくわからなかったが、カメラを下ろしてから軽くペコリと会釈した。
僕たちの座っているベンチの周りにはたくさんのハトやスズメが、そしてカラスまでもが一緒になってウロウロしていた。ベンチの後ろでは一羽のハトが変わった声で泣きながら体をくるくると回転させて、別のもう一羽のハトになにやらアピールしているように見えた。するともう一羽体中が真っ白な別のハトがやってきて、同じように泣きながら体を回転させて猛アピールを始めた。やがて相手のハトと白いハトは寄り添うようにして二羽でどこかに行ってしまい、最初のハトは呆然とその場に立ち尽くしていた。それを少し離れた場所で一羽のカラスがじっと見ていた。そのカラスは愛らしい目をしていたが、目と同じくらいの大きさのイボのようなものが目元にぶら下がっていて、その濡れた瞳はまるで泣いているようにも見えた。
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