2009-04-02
僕は左手に5kgの米袋を、右手に24ロールのトイレットペーパーをぶら下げて俯いたまま黙って歩いていた。最近思い付きでおにぎり弁当を持って行くようにしているので米の減りが早くなったのと、猫と僕が下痢気味なのでトイレットペーパーもたくさん使うからしょうがないんだ、と自分に言い聞かせながら。
「ちょっと待ってよ」
妻が後ろから咎めるように言う。
「勝手にどんどん行かないで。少しはペースを合わせなさいよ」
と、これもうんざりするような量の買い物を両手に持った妻が、その袋を振り回すようにして体をくねらせている。
あのさ、これ重いんだよ。だから一刻も早く家に帰りたいわけ。そんなこといちいち言わせんなよ。
「あー、着いたー。重かったー」
ドサドサと荷物を玄関におろして人心地ついた。
「もー、そんなとこ置かないでちゃんと運んでよー」
もう僕は猫の相手で忙しいんだ。そんなことしてる暇ないんだよ。勝手にやってくれ。どうだ、大丈夫か? お腹ゴロゴロしてないか? うん?
テレビでは花粉の飛散量が例年を上回る予想で、その割には最近にない寒さが続いていると告げていた。僕はしばらく猫の頭を撫でながら薄曇りの空を窓越しに眺めていた。
妻が突然僕の目の前に何かを差し出した。それはいつの間に買ったのか、透明なパックの中に並んだ桜餅だった。
「何となく食べたくて」という妻の言葉にうなずきながらダイニングテーブルにつき、僕が葉を付けたまま三つ、妻が葉を取って二つ食べた。ふと僕は桜餅が好きだった祖母の顔を思い浮かべた。思わず駆け出したくなるような笑顔だった。
桜餅を食べ終わると、僕たちは黙って祖母の七回忌のための帰省の準備を始めた。
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