ギフト
2007-09-06


はい、私も今年で六十六になりましたのよ。ええ、お蔭様で元気でやっております。さすがに寄る年波で暑い季節は体にこたえるようになりましたけどね。
 さあ、何からお話ししましょうか? そうそう、主人とはもう四十年になりますかね。昨年古希を迎えましたが元気にやっております。ただどうもこのところ物忘れがひどくなりましてね。同じことを何度も申しますし、息子の家への道順もわからないんでございますよ。趣味らしい趣味もございませんでね、定年になってからぼうっとしていることが多かったものですから、そのせいでございましょうかね?
 私のほうはまだこの通り元気で仕事に出ておりますのよ。毎日というわけにはいきませんけどもね。ええ、駅前のデパートで贈り物のラッピングや熨斗の名入れをしてるんですよ。なかなか最近の若い人には難しいみたいでね、私のようなベテランは重宝がられるんですよ。
 そういえばこの間、こんなことがございましてね。私がラッピングをしているところに香水の箱がやって来ましてね。これが今どき誰も買わないような香水なんですが、実は主人が昔私にプレゼントしてくれたのと同じものだったんですよ。それが最初で最後でしたけどね。まあ、懐かしくてね、私普段滅多に使わないとっておきの紙とリボンをふんだんに使って、心を込めて贈る人の気持ちを包み込みましたのよ。
 ところがその日家に帰ってくると主人が後ろ手に持った包みをぶっきらぼうに差し出すので、見てみたら何と昼間私が包んだ香水じゃありませんか。もうびっくりして。ただその日は私の誕生日でも何の記念日でもありませんでしたけどね。きっと物忘れが進んで、埋もれていた昔の記憶の欠片が溶け出して蘇ったんでございましょうかねえ。まあどっちにしても嬉しいじゃありませんか、ねえ?
 でもね、昔貰った香水の箱は大事にしまってあったはずなんだけど、これがどうしても見当たらないの。何故なんでしょうねえ?
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